最高裁判所第三小法廷 昭和35(オ)863 判決
主 文
原判決を破棄する。
本件を広島高等裁判所松江支部に差戻す。
理 由
上告代理人山崎季治の上告理由第一点について。
原判決の引用する第一審判決事実摘示並びに記録に徴するに、上告人(原告)の
主張によれば、被上告人(被告)は酒類の販売を本業とするかたわら、かつて鳥取
市a町b番地で「D自動車修理工場」の商号で自動車修理販売業を営んでいた商人
であつて、右修理販売業を営んでいた当時同営業につき被用者として訴外Eを用い
て事業経営をしていたが、その後被上告人は右自動車修理販売業を廃め、右被上告
人の修理販売業に使用していた同じ場所の同じ建物で訴外Eが独立して同種営業で
ある自動車修理販売業を営んだ、そして同訴外人の右営業をなすについて被上告人
はその氏名又は前記の被上告人が営業していた当時の商号を使用することを許諾し
ていたものであつて、右被上告人の営業からEの営業えの切換後も被上告人はその
事実を公表せず事業経営の外観は従前と変らなかつた、等の事実を主張し、よつて
被上告人は商法二三条に基づき本件手形金支払の責任があるとして、上告人から被
上告人に対し本訴が提起されたものであることが明らかである。
そして原審は原判決理由において、証拠により、被上告人は昭和二八年六月頃原
判示a町b番地でD自動車修理工場を始め、修理技術者として雇入れた訴外Eを用
いてその営業をしていたが、営業成績が上らないことその他原判示の事情から同三
〇年一〇月遂に右自動車修理業を廃業し官公庁に廃業届をなし、その被用者であつ
た右Eは新たに独立して、被上告人の前記営業に用いた建物、工具等一切を被上告
人から賃借の上使用して自動車修理業を始め、その際Eは、「D」の商号、看板を
そのまゝ使用し営業していた等の事実を認定した。上告人の主張によればEがD自
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動車修理工場Bなる振出人名義の約束手形を振出したというのは昭和三一年一二月
八日であつて、記録上右Eの営業所は判示a町b番地であるのに対して、被上告人
の住所は原判決の控訴人(被上告人)の肩書のように同町c番地であるのと対照す
れば訴外Eの右営業所は被上告人の住所と同町内の近所にあること、従つて、第三
者から被上告人の営業所であるかの如く誤認され易い関係にあつたことを窺うに難
くないのみならず、他方、被上告人が営業を廃止したという昭和三〇年一〇月から
訴外Eが被上告人名義を冒用して本件手形を振出したという同三一年一二月八日頃
までの間に、Eが被上告人の右営業当時の名称を用いて前記の通り営業したことに
ついて被上告人から異議を述べたり、Eの営業が被上告人の営業とは全く別個の営
業であることを表明するとか、その他Eの営業が被上告人の営業であるものの如く
第三者から誤認されることを防止するに必要な何らかの措置を講じたとの点につい
て、原裁判所は考慮をめぐらした形跡がなく、原審に現われた事実関係の下では、
被上告人においてEが右名称を用いて原判示営業をなすことを黙示的に許諾したこ
ともなかつたとは直ちに断じ難い。してみれば、上告人の被上告人に対する商法二
三条に基づく主張に対し、原判決は何ら首肯するに足る理由を示すことなく上告人
の請求を排斥したもので、この点において判断遺脱、理由不備の違法あるものとい
うほかない。それゆえその余の論点について判断するまでもなく、原判決は破棄を
免かれない。
よつて、民訴四〇七条第一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す
る。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 垂 水 克 己
裁判官 河 村 又 介
裁判官 石 坂 修 一
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裁判官 五 鬼 上 堅 磐
裁判官 横 田 正 俊
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